二度と戦争はしない。そんな思いが込められた平和の通貨「ユーロ」。

経済学科 准教授 斎藤 智美

ヨーロッパ19カ国が導入する共通通貨には、「お金」以上の意味がある。

 他の国と同じ通貨を使うなんて日本人には信じられないかもしれません。ヨーロッパでも金融政策や経済状況が違う国々の通貨を統一するには、様々な壁がありました。では、なぜそこまでして踏み切ったのか?多様な民族がひしめくヨーロッパでは国境や資源をめぐり争いが絶えず、二度の世界大戦では多大な犠牲者を出しました。その悲惨な経験から「戦争は繰り返さない」という思いで、欧州共同体(EC=後の欧州連合EU)が国境を超えた経済通貨同盟(EMU)を構想。1999年に実現し、「同じ通貨を使う自分たちは、同じヨーロッパ市民である」という悲願の旗を掲げました。そして、2015年現在ではEU加盟国のうち19カ国がユーロを導入しています。

「へぇ、そうだったのか」。
歴史や文化、政治や地理も、経済を読み解くヒントになる。

 よくニュースで耳にする「ユーロ崩壊の危機」という問題。現地ではさぞユーロへの反感が強いかと思えば、ギリシャ人でさえユーロからの脱退を望んでいません。経済危機や難民危機、イギリスのEU離脱問題など、EUには問題が山積していますが、これまでも多くの危機を乗り越えてきました。困難な統合を突き動かしているのは、EUが経済的な結びつきだけでなく政治的な連帯感をも高め、平和と繁栄の共同体を構築するという意思を持っているから。このように今起こっている経済の事象を、歴史・文化・政治・地理的背景も踏まえて多面的に見れば、世界をより広く深く眺めることができます。国際経済学の学びで、そんな眼鏡を手に入れるお手伝いができればと願っています。