学部長・学科長メッセージ

産業社会学科 学科長 太田 志乃


2026年春、再びWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開催され、野球ファンのみならず多くの人の関心を集めた。前回大会では、日本代表が世界一を奪還し、大きな感動を呼んだ。今回の大会でも、選手たちのプレーを楽しんだ学生も多いだろう。

ただ、今年のWBCについて一つ気になったことがある。それは試合の視聴方法である。今回は、日本では主にインターネット配信サービス、いわゆるサブスクリプション型の動画配信サービスを通じて視聴する形になっている。これは時代の流れでもあり、ビジネスとして考えれば当然のことなのだろう。しかし、一方で、すべての人が気軽に視聴できるわけではないという現実もある。サブスクに加入していない家庭では視聴することが難しく、特に経済的に余裕のない家庭では、そのハードルは決して低くない。多くの人が関心を寄せる国際大会であっても、アクセスの方法によって体験できる人とできない人が分かれてしまう。そう考えると、手放しで喜ぶだけでは済まない側面もあるように感じる。

このような状況は、スポーツ観戦に限った話ではないだろう。近年、私たちが触れる「情報」や「知識」もまた、さまざまな形でデジタル化され、プラットフォームを通じて提供されるようになっている。動画、ニュース、書籍、そして学習コンテンツに至るまで、多くがオンラインサービスとして提供される時代になった。便利になったことは間違いないが、その一方で、どの情報にアクセスできるのかが個人の環境によって左右される場面も増えている。

こうした状況の中で、大学生が向き合うことになるのがAIである。生成AIの登場によって、情報の検索や整理、文章の作成などは以前よりも格段に容易になった。調べたいことを入力すれば、短時間でそれらしい(正しいとは限らない)答えが返ってくる。学習の効率という点では、非常に大きな変化と言えるだろう。

他方で、考えておかなければならないこともある。AIが提示する情報はあくまでひとつの材料に過ぎない。それをどのように理解し、どのように活用するかは利用する側に委ねられている。AIを用いればすぐに答えが得られる時代だからこそ、自分自身で考え、判断する力の重要性はむしろ高まっているのではないだろうか。

WBCの試合を思い浮かべてほしい。どれほど優れたデータ分析や戦略があったとしても、最終的にプレーするのは選手自身である。準備された情報や戦術をもとに、瞬間的に判断し、自ら行動する。その積み重ねが試合の結果を左右する。AIが発達した社会においても、人間に求められる力は決して変わらないのかもしれない。

大学での学びも同じだろう。情報を集めること自体は以前より容易になった。しかし、その情報をどのように理解し、自分の言葉で説明できるようにするのかは、学生一人ひとりの努力にかかっている。授業やゼミでの議論、レポート作成、読書など、地道な学習の積み重ねが、自分の思考力を形づくっていく。

大学という場所は、さまざまな知識や情報に触れることができる環境である。同時に、それらをどのように受け止め、どのように活用するかを試すことができる場でもある。AIが身近になった時代だからこそ、情報をそのまま受け取るだけではなく、自分なりに問いを立て、考え続ける姿勢を大切にしてほしい。

WBCで世界と戦う選手たちの姿は、多くの人に勇気を与えてくれた。大学生活もまた、それぞれが自分の目標に向かって挑戦する時間である。皆さんがこの貴重な時間を活かし、自分自身の力を着実に伸ばしていくことを期待している。