地球温暖化問題は、今世紀人類が直面している解決すべき最大の課題であり難題の1つであろう。地球温暖化問題に取り組むためには、日本の場合、総エネルギー使用量の80%近く占めている石油、石炭など化石エネルギー使用量を画期的に減らす必要がある。

 

 化石エネルギー使用量を抑える有効な政策として、世界で最も議論されているのが、化石エネルギーの中に含有されている炭素量に応じて賦課する「炭素税」と、企業に二酸化炭素排出量に対応する「許可証」を購入させ、また許可証で示した排出量以下に二酸化炭素を減らした企業とそれ以上に排出してしまった企業同士に許可証の取引を認める「排出権取引制度」である。

 

 国レベルでの本格的な炭素税や排出権取引制度が、現在世界で施行しているのはEUのみである。アメリカは排出権取引制度に関しては種々の法案を提案しているが実施しておらず、炭素税はまだあまり議論されていない。日本の場合、民主党政権に入って両政策の導入を進めてきたが、排出権取引制度は経団連を中心とした産業界の反対により昨年末に導入の保留が決められており、炭素税も、政府は実施方針となっているが、現時点(2011年末)では国会承認がまだ不透明になっている。韓国の場合、紆余曲折の末、政府レベルでは排出権取引制度は2015年から施行する方針となっているが、日本の保留の方針が伝わってからは、産業界を中心に中止すべきであるという声が高くなっており、現時点(同上)ではまだ国会の同意が得られていない。

 

 EUを除き、各国で温暖化対策に有効な政策(低炭素政策)の導入がなかなか進まない主な要因は、政策実施による企業が負担すべきコスト(炭素コスト:すなわち炭素税払い分や二酸化炭素排出許可証購入分)により、産業競争力の低下が危惧されているからである。低炭素政策は、企業が炭素コストの負担を少なくしようと努める過程で低炭素関連技術開発が進み、長期的には二酸化炭素の削減だけでなく低炭素工程革新などにより企業の体質強化にも繋がる。たが、少なくとも短期的には炭素コストが製品価格に転嫁され国際競争力に不利となることで、特に、化石エネルギー使用量の多い鉄鋼、石油、電力関連産業から低炭素政策に対する反対が強い。これらの産業は、政治的影響力も大きいので、低炭素関連政策はなかなか進め難い状況となっている。

 

 ただし、低炭素政策が進んでいるEUでは、炭素コストを負担していない国からの商品輸入については、域内の商品が負担している炭素コスト分を国境で賦課し、また域内の商品が海外へ輸出されるときには同じく国境で払い戻される措置、すなわち国境税調整も議論されている。またアメリカも排出権取引制度関連法案の中で、自国の産業の国際競争力を配慮する同様な措置が盛り込まれている。このような措置は、自由貿易を阻害する規制要因となりWTO(国際貿易機関)ルールにそぐわないという意見もあるが、地球環境保全という名分があり認められるべきであるという意見が優勢であろう。

 

 したがって今後、自国で炭素コストを負担していない商品がこれらの地域へ輸出される場合には、国境で炭素コストの支払いを求める可能性が出てくる。OECD加盟国であり、アジアの先進工業国である日韓両国は、地球温暖化問題で国際貢献する応分の責任を持っており、炭素コストを自ら負担することにより、化石エネルギー依存体質から脱却を図る一方で、国境税調整措置などの問題にもより積極に取り組んでいく必要があろう。