経済学部ニュース
国連ハビタット海外事務所からの現場報告: ナイロビ本部 寺田裕佳氏 [国連ハビタット福岡本部 YouTubeページより] https://www.youtube.com/channel/UC3M8xa98DzxY6NvztNTFC1g |
毎年10月の第一月曜日は、「世界ハビタット・デー」。この日、国連ハビタット(UN-HABITAT)福岡本部が主催されたオンライン・イベント、「ウィズ・コロナ時代のまちを考える」を受講させていただきました。今年は、新型コロナ・ウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大のなか、アジアやアフリカでの事業運営に苦心される専門家の方々のご報告等を拝聴いたしました。
■眼前の課題への対処に加え、構造的問題の解消にも粘り強く取り組むこと
榊原えれ奈 (産業社会学科3年)
オンライン・イベントは、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「世界ハビタット・デー」に寄せられたビデオ・メッセージで幕が開きました。「今年は特に持続可能な都市開発の原動力として、住宅が果たす中心的役割に焦点を当てています」とのお話に続けて、新型コロナ・ウイルス感染症対策との関連では、「清潔な水や衛生設備へのアクセスを確保すること」の重要性を指摘されました。また、「感染症があらわにした脆弱性と不平等」には、連携した取り組みが求められるとも強調されました。
国連ハビタット福岡本部長の是澤優氏は、開会のご挨拶のなかで、COVID-19がいずれの持続可能な開発目標(SDGs)にも深く関わることを概説されました。そして、この感染症が、「ヘルスケア」「オープンスペース」「インターネット」等へのアクセスにおいて、また「リモート・ワーク」への対応力において、不平等を顕在化・拡大させている情況をとらえ、もとの状態にもどすといったことに留まらない、Build Back Betterという復興支援の方針を提起されました。
国連ハビタット海外事務所からの現場報告では、スーダン事務所長の横田雅幸氏が、「まちづくり・復興支援の現状と課題」に関し、各国からの協力が緊急物資・人道支援中心で、まだ中長期的に都市の持続可能な発展を支える政策・計画等が十分に整っていないところに新型コロナの感染が広がったこと、さらにはそれを超える危機―物価高騰、洪水被害、和平問題等―に直面しているという実情を解説くださいました。「感染症対策・医療施設」の脆弱性だけでなく、「政府」「経済」「都市基盤」の脆弱性にも目を向けることの重要性を指摘されました。
スーダンからの報告をうかがうなかで、COVID-19だけでなく、すでに深刻化している「地球環境問題」「洪水」などが脆弱な人々の生活を同時に揺るがし、まちづくりを一段と難しくしていることを実感しました。土地の権利を得ることによって、人々は各種サービスへのアクセスも手にできると思われ、「感染症」という眼前の課題への対処に加えて、経済・社会の構造的諸問題の解消にも粘り強く取り組むことが大切であると改めて認識しました。
■私たちにも参考になる事例が見出せる: まちに描かれたカラフルな絵
熊崎優梨香 (経済学科3年)
国連ハビタット海外事務所からの現場報告にて、ナイロビ本部の寺田裕佳氏からは、南スーダンやソマリアといった近隣諸国からケニアに流入する難民、ならびに、首都ナイロビのインフォーマル居住地・経済についての概要、さらには、ケニアにおける新型コロナ・ウイルス感染症対策の具体的な取り組みを教わりました。
ケニアでは、マスクをしていなければ高額な罰金が科されるため、ほぼすべての人々がルール通りに行動しているとのこと。都市交通に関しては、バスは半数以下の人数と定められ、クルマではなく自転車の利用を促すため、歩道寄りの1車線を可動式の植栽プランターで仕切り、自転車専用レーンに切り替えるといったひと工夫。高密なマーケットは、ソーシャル・ディスタンスを保てるように、大きなオープン・スペースに移設。インフォーマル居住地では、特に手を洗える場所の整備が進められるとともに、どのような行動が感染拡大を防ぐことにつながるのかを建物の壁面に大きく描いて啓発。いずれも、画像を通じて分かりやすく説明くださいました。
国連ハビタットとしては、地理情報システム(GIS)を用いて、保健センターの位置、人口密度の高い地区などに関する情報を提供されてきたそうです。また、「水」をめぐっては、過酷な環境でも持続的に用いることができる技術を、日本の民間部門ともオンラインで連携して探っているとのお話もありました。「新型コロナ」という難問へのチャレンジが続くなか、昨今のICTの進展は新たなつながりも創出し得ると、寺田氏はポジティブにとらえていらっしゃいました。
ケニアでのさまざまな取り組みをうかがいながら、私たちの都市・地域社会にも参考になる事例がいくつもあるように思いました。特に、大きな壁にインパクトのある色鮮やかな絵 [手洗い+マスク+ソーシャル・ディスタンス=NOコロナ] を描き、「まち」として、COVID-19の感染拡大を抑える活動の進め方には、“今まで[スマホ]とは違った新しさ”を感じました。
今回のオンライン・イベントを通じて、「まち」は実に多様で、各地で複合的な諸問題にさまざまな取り組みがなされていることを学びました。国際協力の最前線からのご報告を通じ、改めて広く「政府の役割」を議論する必要があるようにも感じました。
(担当: 谷村光浩)