経済学部ニュース

●2021年6月1日 オンライン講演会
ハビタットひろば「フィリピンにおける健全な海洋と綺麗な都市づくり」受講報告

ハビタットひろば「フィリピンにおける健全な海洋と綺麗な都市づくり」
左: フィリピンにおける海洋ごみ問題 (スライド Part 1: 背景)
右: 国連ハビタット フィリピン事務所 環境社会配慮専門家 藤平純氏


2021年6月1日、国連ハビタット(UN-HABITAT)・福岡県国際交流センター主催のオンライン講演会に参加しました。国連ハビタットでは、海洋プラスチックゴミ問題への初めての取り組みとして、2020年より、「フィリピンにおける健全な海洋と綺麗な都市イニシアティブ(Healthy Ocean and Clean Cities Initiative [HOCCI])」事業を展開されています。今回は、国連ハビタット フィリピン事務所長 クリストファー・ロロ氏、ならびに、同事務所 環境社会配慮専門家 藤平純氏より、その新たな事業の概要をうかがいました。

■「ハッカソン」で、現地の若者が創出したモデル等もベースに事業を運営


三宅梨乃 (産業社会学科 2年)

 

はじめに、国連ハビタット フィリピン事務所長 クリストファー・ロロ氏から、国際的な研究(2015)によると、海洋プラスチックゴミの流出において、フィリピンは世界第3位との厳しい現状が示され、海洋の環境破壊は、人々の暮らしや文化等に関わる主要な開発課題のひとつであるとのお話がありました。本プロジェクトは、COVID-19が広がりをみせ、「コミュニティ隔離措置」がとられるなかでのスタートとなり、大半の活動はオンラインでの実施とならざるを得ず、事業対象の都市・コミュニティでの不可欠な現地調査は、安全に十分な配慮がなされながら進められたそうです。

続いて、同事務所 環境社会配慮専門家 藤平純氏は、フィリピンにおける海洋ゴミに関わる諸課題から解説くださいました。2000年、「固形廃棄物エコ管理法」が施行されたものの不適切なゴミ処理がなされていること、プラスチックの利用を削減する政策的な手立てが欠けていること、国際基準のゴミ処理に関するデータ収集システムが整備されていないことに加え、地域社会・ビジネスにおける3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進にむけたインセンティブや意識面での問題が、海洋ゴミ問題のおもな原因であると強調されていました。

そして、藤平氏は、「ところで、フィリピンからの海洋プラスチックゴミは、何%が一度回収されたゴミでしょうか?」との問いを、スライドにて提示されました。何と、その答えは、上述の研究(2015)によると「74%」だそうです。フィリピンから流出する海洋プラスチックゴミのほぼ3/4は、一度は陸上で回収・処理されたゴミであり、それらを運ぶ際にトラックからこぼれたり、風に飛ばされたり、ゴミ処理場が海岸近くに設けられていることによるそうです。

持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、本プロジェクトは、目標11[持続可能な都市とコミュニティ]、目標12[つくる責任と使う責任]、目標14[海の豊かさを守る]に貢献する取り組みとのお話をうかがい、自らが強みと考える専門分野に引きこもらず、グローバル/ローカルな問題に立ち向かうために関連する領域の方々と広範に連携することの大切さを実感しました。また、効果的な解決策を見出すため、目下、フィリピンの若者たちは、本事業に関連した「ハッカソン」形式のバーチャル・コンテストで新たなアイデアを練っていらっしゃるとのこと。先進国が解決策を提案するのではなく、問題に直面している現地の方々が創出したモデル等を取り込む事業運営の手法にも、大いに心をひかれました。

 



■暮らし方を見直す、「意識」を一段と高める、そして、そのようにできる基盤を


原穂乃佳(経済学科 2年)

 

「フィリピンにおける健全な海洋と綺麗な都市イニシアティブ(Healthy Ocean and Clean Cities Initiative [HOCCI])」事業においては、まもなく始動する「フィリピン海洋ゴミに関する国家行動計画」(National Plan of Action on Marine Litter [NPOA-ML] of the Philippines)の地域レベルでの推進に向けた戦略・ロードマップの作成、海洋プラスチックゴミの流出に関わるデータ収集・管理の向上、さらには海洋プラスチックの削減・管理の試験的なプロジェクトの展開等が、おもな目標に掲げられています。

具体的には、マニラ、カラパン、レガスピ、オルモック、カガヤン・デ・オロ、そしてダバオの6都市を事業対象地域に指定。これまでに、政府機関・地方自治体・事業パートナーとの会議、環境技術専門家による国際会議、事業対象地域におけるワークショップ、「ベースライン調査」[各都市でのゴミの排出・流動に関する基礎データの収集]等を推進されてきたそうです。なお、この「ベースライン調査」については、国連ハビタット本部作成の調査方法「Waste Wise Cities Tool」が導入されたとうかがいました。

国連ハビタット フィリピン事務所 環境社会配慮専門家 藤平純氏は、こうしたワークショップや「ベースライン調査」をもとに、事業対象地域における今後の活動(案)としては、違法なゴミ処理に関する条例づくり、川底の浚渫、現在利用されているゴミ処理場の閉鎖ならびに新たな埋立地の整備、コミュニティ・レベルでのリサイクル活動、インフォーマルなゴミ処理事業者等への支援等が検討されている情況を、お話しくださいました。

海洋プラスチックゴミが、海洋生物・生態系に悪影響を与え、人間の身体・社会を蝕むことに対して、私たちも、ゴミの分別にとどまらず、プラスチック製品に依存した暮らし方の見直しまで含め、「意識」を一段と高めることの重要性を改めて認識しました。また、この海洋プラスチックゴミの世界的な解消にむけては、誰も置き去りにされることのない「学びの場」、そして「働きがいのある仕事」へのアクセスも、長期的にはとても大事なことのように感じました。



【大学ウェブサイト 関連リンク】
名城大学 学びのコミュニティ(2020年度)
E=mc2 for SDGs(Empowerment = movie×creative conception for Sustainable Development Goals)
自らの着想を映像で発信できる、「持続可能な開発目標」(SDGs)のための人づくり


(担当: 谷村光浩)