学部長・学科長メッセージ

産業社会学科 学科長 杉本 大三


私が思う「大学っぽい」授業は3つある。「大学っぽい」とは何なのかということも気になるが、それはあとで考えよう。

ひとつめは「健康・スポーツ科学」である。この授業では長い人生を見据えた健康づくりの方法を学ぶ。経済学部では「健康・スポーツ科学」Ⅰ~Ⅴが用意されている。1年次に受講するⅠとⅡは必修科目である。つまり単位を修得しないと卒業できない。Ⅲ、Ⅳ、Ⅴは2年次以降に希望者のみが受講する。例えば「健康・スポーツ科学Ⅴ」では、スキューバ・ダイビングもしくはスキーを学ぶ。いずれも夏季休暇ないし冬季休暇を利用した集中講義である。スキューバ・ダイビングは大学に設置されているプールで練習を積んだ後、沖縄で合宿して海洋実習を行う。スキーも数日間の合宿を通じて、スキーの基本技能を修得する。「健康・スポーツ科学Ⅴ」の受講生は、短期間の講義を受講することによって、生涯にわたって楽しむことのできる新しいスポーツを修得し、健康な人生を送るためのツールを手に入れる。

ふたつめは第2外国語である。経済学部ではフランス語、ドイツ語、中国語、ハングルのうちいずれか1つを1年間勉強する。第2外国語の辞書を購入した時、学生は大学生になったことを実感するのではないだろうか。英語も十分できないのに、なぜさらに別の言語を学ぶのだろうかと思う人もいるだろう。しかし少しやってみればわかるが、第2外国語は面白くてためになるのである。ためになるというのは、日本語や英語と全然違う文法や語彙を学ぶことで、これまで知らなかった論理の存在を知るからである。例えば日本語や英語と違って、フランス語の形容詞は名詞の後に置かれる。そのことを習い、慣れると、形容詞が名詞の前にあるか後ろにあるかということに本質的な差はないという新たな認識を得ることができる。また名城大学で開講していない言語で恐縮だが、ヒンディ語では「明日」を「カル」といい、「昨日」も「カル」という。なんだか訳が分からないが、それで成り立つ言語の存在を知ることは楽しい。いま日本で普通に生活していると、耳に入ってくるのはおおむね日本語と英語だけである。この言語環境は私たちの思考を知らず知らずのうちに制約しているはずだ。だから第2外国語の学習は、私たちを自由にする。

ここまで紹介した科目はいずれも、教養教育部門の科目である。経済学を学ぶ専門教育部門ではどうだろうか。この部門でもっとも「大学っぽい」のは卒業論文の執筆だろう。経済学部では「ゼミナールⅢ(卒業研究)」という授業で卒業論文を執筆する。この授業では大学3年生までに身につけた知識と問題意識を総動員して課題を設定し、事実に基づいてその答えを探し出す。どのような課題を設定するか、そのために何を検討するか(あるいは何を検討しないか)、どのような論証方法を採用するかといったことを、誰にも頼らずゼロから構築していくのが論文を書くということである。それは小学校時代から山ほど書いてきた感想文やレポートの類とは全く異なる、きわめて自律的な知的営為である。卒業論文の執筆を通じて身につけた思考方法や、自らの判断で調査を進める行動力は社会に出てから必ず役に立つだろう。実は経済学部では卒業論文は必修ではない。きわめてチャレンジングであるために、一定の割合の学生がリタイアしてしまうからだろう。しかし完走できるかどうかは別として、できるだけ多くの学生に体験してほしいと思う。

このように考えてみると、「大学っぽい」とは自由であることと自由にふるまう自己を確立することに関係しているようである。名城大学経済学部で「大学っぽさ」を満喫してほしい。