■ペリフェリから見る自分なりのEU経済論を

 これまでEU(欧州連合)の共通通商政策を主として研究してきました。大学院時代に、EU構成国からEUへ通商政策の権限が委譲されるというEUの経済統合に特有の過程に対する研究からスタートし、EUの共通通商政策が70年代に形成された過程を、GATT(貿易関税一般協定)の東京ラウンドや対日貿易摩擦を通して分析を行いました。次に共通通商政策が形成された後のこの政策の諸問題を取り上げました。まず、共通通商政策が農業分野の特殊利害に左右され、EU全体の利害を体現できていなかった1980年代の状況をウルグアイ・ラウンドの農産物貿易交渉を題材に分析し、同時期に進展した単一市場形成というEU経済統合の飛躍の中で、これが克服されていったプロセスと論理を明らかにしました。さらに1990年代のEU通商政策の展開を、地域主義(regionalism)と多角的貿易体制との関連の中で研究しました。これによって、GATT、WTO(世界貿易機関)についての研究も深まり、現在は進行中のドーハ・ラウンドとEU共通通商政策の研究を進めています。

 

 また、ここ数年はEU経済のより中核的な課題として、経済通貨統合EMUを取上げています。中でもユーロの国際的側面に焦点を当てた分析を続けています。3年ごとに出るBISの外国為替取引サーベイを用いて、国際通貨としてのユーロの発展過程については今後も追っていきたいと思います。ただ、中・東欧諸国の通貨や金融について勉強していますと、EUのコア諸国、ドイツやフランスなどがEUのペリフェリ(周辺諸国)である中・東欧諸国経済に進入し支配していく様子が見て取れることに興味を覚えています。EU経済統合を周辺諸国の立場から捉えようとすれば、通貨・金融の現状分析は避けて通れないと思うようになりました。これにより、ドイツやフランスといったコア諸国からの分析が中心である今までのEU経済研究とは異なる次元の、中・東欧というペリフェリから見る自分なりのEU経済論を発展できるのではないかと期待しています。

■自分なりに考え・まとめることができる力を

 ゼミでは、受講者が国際経済やEU経済について関心のあるテーマを各自選択し、テーマごとにグループを形成し、レポートを作成し、発表するという形で進めています。最終的には12月のレポートフェスティバルでの発表を目標に、グループ学習が進められます。ゼミの学生は各自関心があるテーマに沿ってグループを形成するのですが、小グループなのでお互いに自分の意見を述べやすいようです。またグループ内で議論をすると、そういった事項は記憶に残りやすくなります。さらに質問を受けることにより、新たな視点が得られ、お互いに切磋琢磨し合えるようです。

 

 このような様々な問題について他のゼミ生たちと一緒に調べ、みんなで考え、議論していくというのは、一方的に教員の話を聞く講義型や自習型(自習発表型)では得られない経験があるのではないでしょうか。楽しく学びあう中で学生は国際経済に関する基礎知識を習得し、問題を自分なりに考え・まとめることができる力をつけていってほしいと考えています。

 

 とにかく、なんでも実際に見てやろうという気持ちを常に持っていただきたいと思います。現在は便利な時代ですから、実際に体験しなくとも本やネットの知識だけで何となくわかったような気になる人もいるかもしれません。頭では分かったつもりになっていても、実際に行ってみないとわからないこともあります。例えば車の右側通行と左側通行。日本では車は道路の左側を走り、アメリカでは右側を走ることは、ガイドブックを見れば書いてあります。それ以前に高校までの英語の授業で習った人もいるかもしれません。実際にアメリカに行ったとして、道路を横断するとき、どちら側から来る車に注意しなければならないでしょうか。日本であれば、右を見て左を見て右を確認するでしょう。しかし、右側通行のアメリカでは逆です。横断の際にうっかりして車にひかれそうになった日本人を見たことがあります。また、ユーロが高い時にヨーロッパに行って、ミネラルウォーター1本買うのにも円に換算すると270円もするという経験をすれば、為替レートの動きやその仕組みについての勉強はより実感のこもったものになるでしょう。ただ、こういうのは行ったからすぐにどうなる、というものではないと思います。様々な知識を体験や書物から吸収すると同時に、様々な経験を自分の中に蓄積して考えていくことで、いつかそれらが自分の本当の知識になっていくのではないでしょうか。