経済学部ニュース
2019年6月10日、国連ハビタット(UN-HABITAT)・福岡県国際交流センターが主催される講演会に参加しました。ケニアで「持続可能な開発」プロジェクトを糸口に、難民と受け入れコミュニティがともに暮らせる街づくりを展開されている寺田裕佳氏*と、スーダンにて難民・ホストコミュニティ支援、国内避難民の帰還支援を推進される松本夏季氏**より、各事業計画の概要ならびに進捗状況・成果をうかがいました。
■ケニアでのプロジェクトの報告から
大谷遥香(経済学科3年)
・近隣諸国から流入する「難民」と「都市化」
ケニア北西部には、スーダン、コンゴ、エチオピア、ソマリアなどの近隣諸国から多数の難民が押し寄せています。現地では、人道支援に加え、「都市化」への早急な対応が欠かせないそうです。難民の流入と緊急支援は、伝統的に遊牧生活を営んできた受け入れコミュニティの人々にも大きな影響を与えるため、一時的な対処策の繰り返しではなく、難民と地元の人々がともに自立的に暮らしていける街づくりまでを視野に、「参加型」の事業運営が試みられています。
・難民と地元の人々が集える公共空間
従来の難民キャンプは、柵で囲われた閉鎖的な場でしたが、このプロジェクトでは、難民も地元の人々もともに利用できるオープンな公園が整備されたそうです。スライドを拝見し、開かれた公共空間において、難民と地元の子どもたちから大人まで交流が進み、これから一緒に暮らしていく街を、ともに語り合える素地が大いに形成されうることを実感しました。
・女性のエンパワーメント
本プロジェクトが実施されている居住区においては、事業終了後も持続的な発展が可能になるように、道路工事は地元に新設された会社が担うといった工夫がなされています。また、特に女性の雇用機会を創出するため、ソーラーパネルを活用した街灯の整備にあたっては、域外から高額な完成品を持ち込むのではなく、みずから必要な資材を揃え、組み立てられるように支援されたそうです。そうした活動は、安全な街づくりにもつながっていることが分かりました。
国連ハビタットの報告書には、誰も置き去りにされない「インクルーシブ」(包摂的)な都市経済・社会を形成することの重要性が指摘されていますが、今回のご報告にて最前線での実践例を拝聴させていただき、具体的に少しイメージできるようになりました。
■スーダンでのプロジェクトの報告から
榊原えれ奈(産業社会学科2年)
・共通の文化・価値観は、ひとつの鍵に
南ダルフール州での国内避難民に関する支援でも、避難してきた人々と、支援事業が展開される地元の住民が対象に掲げられています。具体的には、国内避難民の土地の権利を確保することから、女性と若者への自助的な建設技術の訓練、基本的な公共施設・サービスの改善まで、広範な取り組みが計画されているそうです。流入してきた人々と地元住民が、文化や価値観において共通点を見出せる状況にあると、ともに暮らしていくことへの理解が円滑に深まるようです。
・環境への負荷を低減する建築用ブロック
スーダン白ナイル州で進められている南スーダン難民と地元の受け入れコミュニティ住民への支援においては、両者がともに利用できる安全で清潔な町市場とアクセス道路の整備が進められています。特に、施設の建設にあたっては、従来の焼成レンガでは森林破壊をまねくことから、SSB(Stabilized Soil Blocks)という、焼かずに押し固める建築用ブロックの製法が導入されました。この技術は、使用する水の量も抑えることができるそうです。
[質疑応答から]
・支援の最終局面とは
難民、国内避難民に関わる支援がめざす最終の段階とは、どのような状況でしょうか。流入してきた人々が元の居住地に帰還することなどが想定されていますかとのフロアからの問いについては、流動者も地元住民も一緒に暮らせる街を、関係者が参加型で描き出し、築き上げていくといったビジョンがありうるとの見方が示されました。
「国連ハビタットのアフリカにおける活動」を拝聴し、問題を抱える「難民」「国内避難民」とされる人々だけでなく、そうした人々を受け入れるコミュニティへの支援が合わせて必要なことを学びました。また、国内外から流入してきた人々と地元住民がこれからの街づくりをともに話し合う場づくりは、これからの日本にも重要なポイントであると感じました。
* UN-HABITATプログラム・マネジメント・オフィサー / カロべイェイ事業担当
** UN-HABITATスーダン事務所 広報担当
(担当: 谷村光浩)