経済学部ニュース
2019年12月2日、国連ハビタット(UN-HABITAT)・福岡県国際交流センター主催の講演会に参加しました。国連ハビタット・ネパール事務所のパドマ・ジョシ事務所長ならびに坐間昇気候変動専門官より、「カトマンズ盆地における持続可能な観光及び歴史遺産のための緑の成長プロジェクト」の背景や事業内容をうかがいました。
■複合的なアプローチの立案、さまざまなパートナーとの事業連携
大谷遥香(経済学科3年)
ネパールでは、歴史遺産が危機にさらされています。都市の拡大、ネパール経済・生活様式の変化、伝統的な技術・知識の喪失などが主な原因で、ことに2015年のネパール大地震後、拍車がかかっているそうです。近年の経済・社会変動のなか、有形・無形遺産に対する人々の思い自体が衰微していることも課題であると、パドマ・ジョシ氏は指摘されていました。
国連ハビタット・ネパール事務所では、2018年より、「カトマンズ盆地における持続可能な観光及び歴史遺産のための緑の成長プロジェクト」を、ブンガマティという歴史遺産居住区域で展開されています。この地区は人口約4,000、世帯数1,000あまりで、その歴史は14世紀にまでさかのぼるという歴史のある街です。大地震の時には、およそ900戸の2/3が損壊しました。その復興事業において苦慮されたことは、人々が暮らしてきた歴史的な価値のある建物の再建だけでなく、住民の生計をどのように立て直してゆくのかという点でした。
本事業では、「歴史遺産」の保全に加えて、「地球・自然環境」との調和、「観光」を軸にした産業の振興をはかるという、複合的なアプローチがとられました。そして、特に若者、女性、都市貧困層が、プロジェクトのターゲット・グループとされました。パドマ・ジョシ氏は、「持続可能な開発目標」(SDGs)に照らせば、「8 働きがいのある仕事と経済成長」、「11 住み続けられるまちづくり」、「12 持続可能な消費と生産のパターンの確保」を視野に展開する、政府、地方自治体、国際機関、民間部門による「パートナーシップ」事業であると解説されました。
ネパールへの国際協力プロジェクトの下調べを通じて、私の念頭には、水道、道路、水力発電、学校建設など、各分野にて実施される個別の取り組みがありました。国連ハビタット・ネパール事務所の方々が、上述の通り、歴史的な街の震災復興という場面において、建物の再建のみならず、地域経済の活性化、貧困削減、気候変動への対処までをひとまとめにして事業を立案され、多様なアクターと連携して実施されていることに驚嘆しました。複合的な事業の企画・構想、そして運営の仕方を学ぶ貴重な機会となりました。
■事業の運営は地元住民組織とともに
榊原えれ奈(産業社会学科2年)
本事業のコミュニティ・レベルでの活動内容については、伝統的家屋の再建への技術支援(耐震性の強化を含む)、公共インフラの整備、歴史的建造物の修復などに加え、観光振興の一環として、海外からの来訪者へのアメニティ施設の整備も、ひとつの柱に掲げられています。そして、このような事業の運営には、住民の参加が促されています。
ネパール大地震では、都市に水辺空間を創出している池も被災しましたが、その瓦礫の除去にあたっては、重機を用いずに、地域住民が自らの手で作業を進めたそうです。スライド上の写真を拝見しながら、人々が有形・無形の遺産へ寄せられてきた思いを呼び覚ますきっかけとなったのではと感じました。
持続可能な観光を通した歴史遺産の保護、地場産業の活性化に関しては、地元の祭り・舞踊、稲作、木彫りなどの体験のほかに、サイクリング・トレイルなどの整備を通じ、ネパールの歴史・文化を、身をもって経験できる工夫が次々になされています。この体験型観光のブランディングにあたっては、SDGsの「12 つくる責任、つかう責任」が強く意識されています。
最後に、今後、本事業を通じた支援終了後も、プロジェクトが地元の住民組織などによって円滑に運営されるように、「制度的な持続可能性」も十分に考慮したプランニングがなされているとのお話もありました。
私たちは、国連ハビタットの英文報告書をゼミで読み進め、まちづくりに関わるさまざまな観点について学びを深めてきました。今回、ネパール事務所での取り組みをうかがうなかで、いくつかの重要な用語を聞き取ることができ、プロジェクトへの関心が一段と高まりました。事前にネパールについて資料を収集した際、「停電」が課題と記されていましたが、近年は水力発電により状況が大いに改善されたと坐間昇氏よりご教示いただき、開発の成果が着実に現れていることを実感しました。「SDGs」にもとづく観光の発展を通じて、海外との交流が高まり、当地に暮らす女性が自由に活躍できる場が広がることも願いました。
(担当: 谷村光浩)