経済学部ニュース

●2019年度・後期、名城大学経済学部
 社会フィールドワーク:「働き方」実態調査 活動報告




本授業は、名古屋・東海圏を中心に「働き方」の実態を調査し、変化の要因や直面する課題について考えるためのフィールドワークです。

本授業ではまた、学生が情報通信デバイスや図書館資料を駆使して数々の調査ミッションをこなす中で、実践的なリサーチスキルやプレゼンスキルを身に着けていきます。

事前調査として、日本の「働き方」をめぐって今なにが議論になっているか、どういう変化が生じているか、といった全国的状況を整理しました。とりわけ、日本の雇用統計(有効求人倍率や非正規雇用比率など)、日本型雇用に関する意識調査、賃金・労働時間統計、格差指標、働き方にかかわる新聞記事、「働き方改革」についての議論などを、小グループで分担しながらリサーチし、成果を共有しました。

その上で今年度は、政府、経営者(団体)、労働者(団体)がそれぞれ、「働き方」の現状や変化、課題をどう捉えているのか、聞き取り調査を行うことにしました。

11月14日、名古屋東労働基準監督署の皆様にお話を伺うことができました。労働基準監督署とは、「働き方」をめぐる政府の相談窓口で、労働基準法に違反しているなどの疑いがある法人(雇い主)に対しては、調査や是正指導、場合によっては送検もできる機関です。このように大変重要な機能をもった組織ですが、限られたマンパワーのため、対象企業を絞り込んで対応しています。愛知県では近年、過労・労災、ハラスメント・いじめなどの相談・申請件数が増えてきている、とのことです。労働者のためにこういった問題を解決しつつ、残業の抑制や子育てとの両立、非正規職の待遇改善などを推進することは、生産性向上と優秀で多様な人材の確保につながるため、長い目でみれば企業のためにもなる、といった“公”的な捉え方が特徴的だと感じました。

 

名古屋東労働基準監督署の職員を囲んでのディスカッション。


11月21日、愛知県経営者協会(以下、愛知経協)のご担当者にお話を伺うことができました。愛知経協は、愛知県内の855社が加盟する、人事労務専門の経営者団体です。少子化による人手不足への対策の必要もあり、新しい取り組みに挑戦する会社の事例が紹介されました。ホンダロジコム(物流)は託児所で女性社員を獲得、マイクロソフトは週休3日制を導入、など。一方で、働きやすい職場づくりは、生産性向上なくして成り立たないが、こちらは十分な成果がまだ見えず、日本型雇用をどう変えていくかについてもまだ試行錯誤が続いている、とのことです。AI・ロボット等の導入によって仕事量を抜本的に減らすような生産性向上を課題とすることや、正規・非正規格差の是正にはそれ相応の企業内の原資が必要(現状では中小は困難)、といった“経営”的な捉え方が参考になりました。

 

愛知県経営者協会のご担当者によるレクチャーを聞く学生達。


11月28日、日本労働組合総連合会愛知県連合会(以下、連合愛知)のご担当者にお話を伺うことができました。連合愛知は、愛知県における労働団体のひとつです。愛知県は全国平均に比べると、製造業の割合と労働組合組織率が高く、勤続年数が長い。変化はそんな愛知県でも進んできましたが、問題は複雑とのことです。例えば、大企業が「残業削減」した分を下請けの中小に丸投げし、中小では長時間労働が続いてしまう問題。男女平等意識の遅れから、いまだに男性社員が育休を取りづらい問題。未組織の中小や非正規雇用部門に、春闘の効果が及ばない問題、など。雇用の安定化(持続可能な経済)と労働組合の存在は不可分であるという、“組合”的な捉え方が印象的でした。

 

連合愛知のご担当者に質問をする学生達。


聞き取り調査の後、学生達はそれぞれ学んだことをまとめてプレゼンテーションを行いました。さらに追加的調査として、より最近の動向として、ウーバーイーツやコンビニのような「個人事業主」型労働の実態・問題などを調べました。全体として、日本と愛知県における「働き方」が今、どういう状況に置かれているのかについて理解を深められたと同時に、自分達の力で調査し、論点等を整理し、発表する力を、学生達は得ることができたと思います。

 


(担当:神野圭介)