経済学部ニュース
ハビタットひろば 「ラオスにおける気候変動適応に向けた取組み」 国連ハビタットラオス事務所長アヴィ・サーカー氏 |
ハビタットひろば UN-Habitat Lao PDR (2021), Lao PDR National Climate Change Vulnerability Assessment |
山本希世子(産業社会学科3年)
2023年6月1日、国連ハビタット(UN-HABITAT)福岡本部・福岡県国際交流センター主催のオンライン講演会に参加しました。国連ハビタットラオス事務所では、「気候変動適応に向けた取組み」の一環として、政府・地域社会と連携しながら、「気候変動リスクとその脆弱性に関する評価・調査」を実施し、「気候変動が地域社会へ与える影響」の解明を進めています。今回のハビタットひろばでは、国連ハビタットラオス事務所長アヴィ・サーカー氏ならびに同事務所の日野久美子氏が、近年ラオスで展開された「脆弱性の評価・対応計画の立案」の概要をご教示くださいました。
現代社会において喫緊の課題のひとつである気候変動に国境はなく、世界中の地域社会や生態系に大きな影響を与えています。ラオス(ラオス人民民主共和国)も例外ではなく、毎年のように干ばつや洪水に見舞われ、気候変動に対する適応力の向上が急務となってきました。国連ハビタットラオス事務所では、ラオスの自己回復力を高めつつ、脆弱な地域コミュニティを守り、なおかつ豊かな自然を次の世代へと引き継ぐことを最終目標に活動しているそうです。
ラオスでは、2008年から2020年の12年間に、被災者が1万人以上とみられるハザードが11件発生。そのため、“場当たり的”な解決策ではなく、根本的な対応策が必要とされてきたとのことです。ハザードの発生を防ぐ、被害を小さくする、脆弱性を減らす、これらをバランスよく組み合わせることの重要性を踏まえた上で、今回はラオス天然資源環境省と協力して実施した『ラオスにおける気候変動に対する脆弱性の評価』報告書(2021)をもとに、ラオスにおける気候変動適応への取組みを紹介くださいました。村(Villages)レベルにあたる8,500地域を対象に、洪水、干ばつ、土砂崩れ、暴風雨、地震の5つのハザードについての情報収集は、ラオス初の全国規模で実施されたもので、この報告書は国会において取り上げられるなど注目されたそうです。
この調査では、2019年、対象地域のうち46%が1つ以上のハザードに見舞われていることを明らかにしています。実に、全人口のおよそ4割にあたる約300万人に影響が及んだとのことです。最も多くの地域に影響を与えたハザードは干ばつであり、次いで洪水、土砂崩れということも分かりました。調査・分析結果を踏まえ、ラオス事務所では、洪水マップの作成や関係法令の整備といった気候変動適応を促進する取り組みを提案したそうです。この調査を含む様々な情報も踏まえながら、ラオス政府は、気候変動に対して適応力のある社会づくりを目指し、取り組みを進めているとのことです。
陸に囲まれて海に接していない内陸国においても、様々な災害が多発し大きな被害が生じているなど、気候変動の影響は、自らの想像をこえたスケールと頻度で生じていることを認識しました。ご講演の冒頭で、アヴィ・サーカー氏は今回の講演内容を「頭で理解していただくというよりは、心へ届けたい」とお話しされていました。気候変動による影響は、私たちの暮らしとも密接に関わっています。気候変動が及ぼす影響、その要因とされる経済社会のあり方について、考え続けていきたいと改めて感じました。
(担当: 谷村光浩)