経済学部教員の書籍を紹介します。それぞれの著述の概説は、教員自身によるものです。国内外の書店や図書館で、見かけられたり、興味をもたれたら、ぜひ手に取ってみてください。


Soocheol Lee, Hector Pollitt and Park Seungjoon(eds), Low-carbon, Sustainable Future in East Asia: Improving energy systems, taxation and policy cooperation (published by Routledge in 2015)

 本書の目的は、経済の側面だけでなく、エネルギー・環境側面においても相互依存を強めている日本、中国、韓国そして台湾を中心とする東アジア地域における、持続可能な低炭素経済(化石エネルギーと原発に依存しない経済)の実現のために必要な知見と政策課題を見出すことである。そのための解明すべき問題を、次の3つの研究課題に絞って考察を深めた。
 第1の研究課題は、東アジアのエネルギー選択は如何なるものであるべきかである。第2の研究課題は、エネルギー・炭素税の制度設計は如何なるものであるべきかである。そして第3の研究課題は、東アジアにおける低炭素政策の選択と協力は如何なるものであるべきかである。
 本研究に納めた様々な分析と検討の結果として、東アジアの持続可能な低炭素経済への道は以下の3つであると結論づけられる。(1)原子力の規制と低炭素制度設計による持続可能なエネルギーミックスの実現、(2)環境税制改革(たとえば炭素税を導入し、その税収を消費税、所得税、企業の社会保障負担などの軽減にまわすこと)による環境と経済の両立と、税収の活用による経済活性化、分配問題の緩和、(3)低炭素・エネルギー問題における東アジアの政策協調ができる東アジア低炭素パートナーシップの実現である。


松尾秀雄著「非商品経済の領域と市場」(河村哲二ほか著『グローバル資本主義と段階論: マルクス経済学の現代的課題 第II集第2巻 現代資本主義の変容と経済学』御茶の水書房、2016年)

 『グローバル資本主義と段階論』という大きな書籍を共同で執筆した。書店は、古い付き合いの御茶の水書房が出版作業をはじめ、担当された。
 どんな研究を私的にはテーマにしているか。経済の中にある非市場領域を人間の行動論的なアプローチで理論の手続きで説明してみたい、というのが研究の主題であり、先行研究であるところの人類学や社会学の膨大な著作を嬉々として読み進めている。
 まず、資本主義の経済のなかに存在する非商品経済の領域について説明したい。宇野弘藏は、資本主義がどんなに発展しても不純な要素は残存するという見方を示した。いわゆるA+B=Eという公式である。商品経済の要素と非商品経済の要素のアマルガムとして、現実の資本主義という経済として、社会は存在する、という認識である。しかしながら、いままでのマルクス経済学の原理論では、純粋な市場経済の論理しかありえないという立場であって、共同体としての家族や国家は多様性か類型性の説明で済まされてきた。ここを贈与行為に基盤を置きながら、何とか説明にこぎつけたらよいと、思考と試行を重ねている。


杉本大三「食料消費パターンの地域的特徴とその変化」(押川文子・宇佐美好文編『暮らしの変動と社会変動 激動のインド5』,日本経済評論社、2015年

 『暮らしの変化と社会変動』は、全5巻からなる叢書「激動のインド」の最終巻で、最近のインド社会の変化を、人々の生活の変化からとらえようとしたものです。10人の研究者で共同執筆したのですが、私は第2章で食料消費の変化について論じています。1980年代から2000年代にかけての3時点、各10万世帯の家計消費データに基づいて、穀物、ミルク、食用油、肉類、卵、魚介類などの消費量や支出額の変化を調べたところ、いろいろなことが分かりました。2つだけご紹介します。ひとつは、インドの食事に明確な地域性が存在することです。例えば、北西部の人々はミルクをたくさん飲んで小麦粉で作ったチャパティを食べますが、南部の人々はミルクをあまり飲まず、米をたくさん食べます。南部では雑穀もまだたくさん食べられています。もうひとつは、肉類の消費量があまり増加していないということです。東アジアや東南アジアの国々では、経済成長とともに肉類の消費量が著増したのですが、インドではそうした傾向が見られませんでした。それが菜食主義に価値を見いだすインドの食文化のためなのか、経済成長にもかかわらず貧困層が大量に存在するためなのか、あるいは多少所得水準が上昇したとしても、それを食事以外のことに使わざるを得ないからなのか、謎は深まるばかりです。


荒川章二・河西英通・坂根嘉弘・坂本悠一・原田敬一編, 『地域の中の軍隊8 基礎知識編 日本の軍隊を知る』, 吉川弘文館、2015年

 戦前の日本社会において、「軍隊」は民衆の日常生活と密接な関係にありました。本書は、その様子を地方別にまとめたシリーズ「地域のなかの軍隊」(全9巻)の1冊であり、戦争や軍隊に関する9つのトピックについて解説したものです。具体的には、徴兵制、徴兵忌避、鎮台・鎮守府、在郷軍人会、皇族軍人、軍事郵便、医療、従軍僧・神官、軍馬がとり上げられています。このうち大瀧は、「軍馬」の項を執筆しており、農村で飼われていた馬たちが軍用に血統改良され、それらが戦時に動員されていった様相を紹介しています。
 戦後70年を経過した現在、かつてのような大規模戦争が起こることは考えにくい世界が実現されました。しかしテロや紛争といった武力行使は、なおも世界中で繰り返されています。また戦争の最も残酷な側面ともいえる「人をモノとして扱うこと」は、軍事力とは異なる方法(例えば経済力)を通して再び我々の前に現われています。こうした問題を考える上で、本書は多くの手がかりを提供してくれるでしょう。


マーティン ハート=ランズバーグ (著), 岩佐 和幸 (監訳)『資本主義的グローバリゼーション―影響・抵抗・オルタナティブ』(高菅出版)、2015年

 グローバリゼーションについては、国家間の結合を促し、そこでの競争が効率性を改善し大多数の幸福を高めていく、との見方が大勢かもしれない。しかし、利潤を追求する多国籍企業は、生産と消費のグローバルシステムを形成する中で、有害な不均衡・不安定・不平等を引き起こし、むしろ多大なコストさえ生み出した。2016年、世界は懐疑を深めつつある。
 本書は、長年この点に警鐘を鳴らしてきたアメリカの経済学者による2013年発表作の全訳である。「グローバリゼーション」を「資本主義的」なものと捉えた本書は、その力学、影響力、アンチテーゼ、オルタナティブを明示し、我々が直面する課題に応える。「第1章 生産の国際化とその影響」「第2章 新自由主義:神話と現実」「第3章 資本主義/米韓FTA/抵抗」「第4章 シアトル以降:運動構築をめぐる戦略的思考」「第5章 ALBAと南の銀行から学ぶ:挑戦と可能性」「第6章 ALBAと協同的開発の可能性」の各章を備える。うち、名和は第4章の訳出を担当した。


トニー・サイチ+胡必亮共著 (谷村光浩訳) 2015,『中国 グローバル市場に生きる村』, 東京, 鹿島出版会.

 本書は、 Saich, Tony and Biliang Hu 2012, Chinese Village, Global Market : New Collectives and Rural Development の全訳です。
 1990年代後半、「水田は幹線道路に、水牛は製品輸送トラックに」と大変貌を遂げた珠江デルタの一農村。トニー・サイチ(ハーバード大学教授)、胡必亮(北京師範大学教授)は、約20年間にわたる実地調査をもとに、その目覚ましい経済的、社会的な変動を克明に描き出しています。
 本書には、変化を促した中央の施策は知られているが、「あまりよく分かっていないのは、実際に地元の人々が編み出し、しかも経済だけでなく末端レベルでのガバナンスに影響を与えた取り組みがどれほど多いかである」などと、ハーバード大学の世界的な碩学による推薦の言葉が添えられ、この村の臨場感あふれる“スタディ・ツアー”へと誘っています。
 中国の農村開発はもとより、公共・公益思想、内発的発展論、社会的包摂などについて具体的に論考を深める際、原著者らの事例研究からは様々な手がかりが得られるものと存じます。

 本書は、日本経済新聞(2015/09/13付朝刊)書評欄、ならびに、科学技術振興機構の中国関連書籍紹介(2015年vol.12)に取り上げられました。



経済学部教員の書籍を紹介します。それぞれの著述の概説は、教員自身によるものです。国内外の書店や図書館で、見かけられたり、興味をもたれたら、ぜひ手に取ってみてください。


Tomohiko Kawamori, “A noncooperative foundation of the asymmetric Nash bargaining solution,”Journal of Mathematical Economics 52, 12-15, 2014.

 本研究では、3人以上の個人が次の交渉過程で配分を決める状況を分析しました。まず、ある個人が配分を提案し、次に、その他の個人が提案への賛否を表明します。全員が賛成した場合、提案通りの配分が実現し、それ以外の場合、最初に提案を拒否した個人が対案を提案し、以下同様のプロセスが続きます。
 交渉がスムーズに進む環境では、交渉の結果実現する配分が「非対称ナッシュ交渉解」というものとほぼ一致することを証明しました。非対称の源泉は個人の我慢強さ(将来を重視する度合い)にあり、より我慢強い個人を重んじる配分が実現することになります。
 3人以上の個人による「譲渡不可能効用」交渉で、提案を拒否した個人が次の提案者になる交渉過程を考えたのが新しい点です。また、各個人の我慢強さが異なっており、実現する配分の非対称性が制度(交渉過程)ではなく、個人の特性(我慢強さ)に由来していることが特徴的です。
 最後に、本研究は、「協力ゲーム」の解を「非協力ゲーム」で基礎づける「ナッシュ・プログラム」という研究の流れに位置づけられることを付け加えておきます。


谷村光浩 2014(程雅琴译・李涛校), “从移动人口研究类推可想象的‘量子城市治理’记述”, 王名主编『中国非菅利评论』, Vol.13, pp. 24-53, 北京, 社会科学文献出版社.

 本書に所収された論文は、“移動する人々をめぐる論考からの類推より考えられる「量子都市ガバナンス」の記述”(谷村2012)が中国語に訳出されたものです。まずは、清華大学公共管理学院NGO研究所長王名教授をはじめ、諸氏のお力添えに深く感謝申し上げます。
 グローバルな諸課題を視野に、これまでになくしなやかに「ガバナンス」を発想するため、2009年の論文では、物理学分野の言説からのパラフレーズにより、“考えられるガバナンス”の理論的枠組みづくりを進め、いわば「ニュートニアン都市ガバナンス」を深化させたパラダイムとしての「量子都市ガバナンス」を提起しました。
 本論文では、移動する人々を研究する枠組みの抜本的再考に関わる論述を概観した後、「ディアスポラ」「トランスナショナリズム」「グローバル化と女性たちの越境」の描かれ方、さらには「差異と流動の哲学」「量子的な“私”」といった視座への考察をもとに、“居住”状態やアイデンティティの“量子力学的なありよう”にあっては、多世界解釈にならい、「多“居住”/多アイデンティティ解釈」という試案を提示しました。


Soocheol Lee, Hector Pollitt, Seung-Joon Park, Kazuhiro Ueta 2014,“An economic and environmental assessment of future electricity generation mixes in Japan - an assessment using the E3MG macro-econometric model”, Energy Policy Volume 67, April 2014, Pages 243-254

 本論文は、日本が将来に持続可能な低炭素社会へ移行するためにいかなるエネルギー政策の選択が必要であるかを明らかにしています。日本が2020年までに二酸化炭素排出を画期的に減らしていくために(1990年対比2020年に25%削減)必要な電源選択と合せて原子力発電の環境・経済効果を評価しました。本論文は、この分析のためにイギリスのケンブリッジ・エコノメトリックス研究所が開発したマクロ計量経済モデルを採用しました。
 分析の結果、脱原発と低炭素社会へ移行することによる経済への悪影響はほとんど見られず、各種の低炭素関連投資効果により返って雇用に良い影響をもたらすことが分かりました。そして炭素税の導入とその税収を所得税など他の税の減税に回す場合、いわゆる二重配当効果(二酸化炭素の削減と経済活性化の同時達成)が現れることが明らかになりました。ただし、2020年までに1990年対比二酸化炭素削減25%削減と原発ゼロを進めるためには高率の炭素税導入(二酸化炭素1tあたり約1万円(ガソリン1L当たり約20円に相当))が必要となり、政治的に容易でないことも示しました。


Soocheol Lee(co-editor) 2014,“Critical Issues in Environmental Taxation”, Environmental Taxation and Green Fiscal Reform Edgar Elgar

 本書は、環境税制改革、すなわち環境に有害な物質(たとえば、二酸化炭素、PMなど)には課税をする一方で、経済行動と関連したもの(たとえば、労働、消費など)に対しては課税を軽減することは、環境改善に資する一方で経済活動を促すことを、多様な事例を用いて検証しています。また環境税制改革だけではなく、財政システムそのものを環境にやさしい方向で改革することを提言しています。
 そのため、政府は原子力発電や化石エネルギーに基づいたエネルギーに対しては課税を強化し、企業の低炭素技術革新や投資には適切な補助プログラムを用意する必要があると論じています。こうした環境税制改革は、短期的な視野に基づいては政治的な抵抗により実現が難しく、政治家の強いリーダーシップの下で一般国民にも長期的なビジョンを示しながら進める必要があると主張しています。そして化石エネルギー依存経済の限界性、原発のリスクと社会的費用を国民に説得しながら低炭素経済に向けた制度改革が必要であることを示しました。



経済学部教員の書籍を紹介します。それぞれの著述の概説は、教員自身によるものです。国内外の書店や図書館で、見かけられたり、興味をもたれたら、ぜひ手に取ってみてください。


Soocheol Lee(co-editor) 2013, “The Green Fiscal Mechanism and Reform for Low Carbon Development-East: Asia and Europe” Routledge.

 本書は、東アジアにおける財政のグリーン改革の現状とこの地域における低酸素社会に向けた今後の課題を、EUの先行事例の分析を踏まえながら考察しています。EUの国々は、環境税改革(化石燃料の炭素量に応じて課税をし、その税収を所得税や法人税の減税に当てることにより環境保存と経済活性化を同時に図ろうとする試み)、排出権取引制度、環境に有害な補助金の削減や撤廃などを通じて、財政のグリーン改革と低炭素成長戦略を進めてきました。
 これに比べて経済発展段階の異なる東アジアでは、経済活動や産業競争力への負の影響を考慮し、近年にいたるまでに財政のグリーン改革はあまり進んでいません。また東アジアの国々における財政のグリーン改革の進展状況や度合いは、経済発展段階や所得水準によって様々です。しかし地球温暖化問題や高騰するエネルギーコスト問題への対応に迫られることにより、近年は漸進的でありながらも財政のグリーン改革を進めています。
 EUの国々は、過去約20年間財政のグリーン改革を進めてきた経験があり、その過程で温室効果ガス排出削減と経済および産業競争力が矛盾しない政策実施に一定の成果を収めています。本書は、こうしたEUの経験を踏まえながら、東アジアの国々が、財政のグリーン改革と低炭素成長、すなわち温室効果ガス削減と経済発展を同時に達成できる政策と制度設計のあり方を明らかにしています。


新井大輔 2013, “経済の金融化とマルクス信用論”, 高田太久吉編『現代資本主義とマルクス経済学』, pp.187-210, 東京, 新日本出版社.

 本書は、世界金融恐慌によってその矛盾を露わにした現代資本主義の構造と動態を、グローバル化、金融化、新自由主義という三つのキーワードによって明らかにする試みです。
 本書は二部構成を採っており、前半では、マルクス経済学を基礎とした現代資本主義論の概要を提示しています。具体的には、今回の恐慌を、1970年代以降の資本主義の構造変化、国際不均衡の拡大、日本の「失われた20年」、欧州経済危機、失業・格差問題という五つの視点から解明しています。
 また、後半では、マルクス経済学の新しい理論的課題と可能性を検討しています。そこでは、恐慌論、帝国主義論、信用論という伝統的な理論分野だけでなく、比較的新しいテーマである地球環境問題や大規模災害についての最新の議論が取り上げられています。
 私が担当した第8章「経済の金融化とマルクス信用論」では、今次の恐慌の主要な舞台となった現代の金融市場と、そこでの現代企業の金融・財務活動を、マルクス信用論の基礎的な概念と結び付けて考察することを通じて、解明すべき理論課題を整理しています。
 専門家だけではなく、現代の政治経済に関心を持つ幅広い読者に読んでもらえればと思っています。



李秀(編著) 2014, 『東アジアのエネルギー・環境政策:原子力発電/地球温暖化/大気・水質環境』, 京都, 昭和堂.

 本書は、日本・中国・韓国・台湾を中心とする東アジア地域におけるエネルギー・環境政策の運用実績に関する国際比較分析を通して、東アジア環境共同体と呼ぶべき緊密なエネルギー・環境協力システムを構築し、同地域を持続可能な発展へ導いて行くための方向性を示すことです。
 本書は、大きく分けて次の3部で構成されています。第1部は東アジアの原子力発電政策における規制と財政、第2部は東アジアの気候変動政策と環境税・財政改革、そして第3部は東アジアの環境規制と財政(大気及び水質環境保全に向けて)です。
 一定の環境水準を保障すべき環境法・規制と、エネルギー政策のあり方は、狭い意味での環境保全だけでなく一国のあらゆる政策や制度の持続可能性を規定します。エネルギー・環境制度改革は、短期的な経済情勢に左右されない、確たる信念と強いリーダシップの下で、国民に化石エネルギー依存経済の限界、環境汚染を適正な方法で内部化する必要性、原子力エネルギー利用のリスクに対する正しい教育や情報提供を地道に行ってゆく必要があります。
 本書は、これらのエネルギー・環境政策の国際比較分析を行い、相互のメリットとデメリットを深く考察することにより、東アジア地域においてエネルギー・環境システムを持続可能なものへと変革していくための方向性を提示しています。




経済学部教員の書籍を紹介します。それぞれの著述の概説は、教員自身によるものです。国内外の書店や図書館で、見かけられたり、興味をもたれたら、ぜひ手に取ってみてください。


Soocheol Lee and Kazuhiro Ueta 2012,“Public Policy issues on the disposal of High-Level Radioactive Waste in Japan” Soocheol Lee and Kazuhiro Ueta,Larry Kreiser et al.(ed.),,Critical Issues in Enviromental Taxation,Voiume XII, pp.197-211, Edward Elgar

 

<日本における高レベル放射性廃棄物処理の公共政策>
 これまで国策として進められてきた原子力発電によって生じる使用済み核燃料の処理問題は、経済的な問題というより政治性の高い問題となっています。そして3・11東日本大震災による放射能被害に直面した日本国民は、原子力発電に関する徹底的なコスト分析や潜在的リスクがこれまで十分に議論・評価されてこなかったことについて認識するようになりました。
 日本では、高レベル放射性廃棄物の処理処分に関わる社会的リスクやコストについて、電源3法の交付金に代表されるように国の責任や財政措置を中心に対応してきました。しかし、財政支援策をバックに進められてきたこれまでの原子力政策は、全面的に再検討されるべきだと考えます。
 高レベル放射性廃棄物の処理処分は、これまでの国の責任や財政資金投入中心の政策から脱却し、徹底的な情報公開と政策決定の透明性を確保するとともに、放射能リスク防止技術の開発、そして市場原理の適用拡大と事業者責任の原則に基づいた幅広い議論を行い、国民の信頼や共感が得られる方向に進めるべきでしょう。
Yuri Sadoi 2012,“Innovation and Industrialization in Asia”,Rajah Rasiah, Yeo Lin, and Yuri Sadoi (eds.), London,Routledge.

 アジアは1980年以降急速な経済発展を遂げ、その中でも、中国、インド、韓国、台湾、アセアン経済が世界のGDPを牽引する原動力としての役割を果たしてきています。このアジアの急速な経済発展とその発展に伴う構造変化についての研究は、新興国経済発展研究の中核をなしつつあります。多くの新興国では、農業や鉱業を主要産業として、1次産業を中心に発展してきましたが、工業化を経済発展の原動力として政策転換し、1次産業から2次産業への構造の変化が急速に進んでいます。
 しかし、経済発展政策、経緯、進捗度、構造変化については、国により、また産業により画一的なものではなく、様々な発展経緯を経ており、その進捗度、進捗速度も多種多様です。
 本著は、アジアの産業構造変化を電子・自動車産業を中心として、技術レベル、経済キャッチアッププロセスを国別に分析しています。佐土井有里は、国際共同研究の一環として、Rajah Rasiah教授、Yeo Lin教授と共に編著者として、マレーシア、タイ、インドネシア、ミャンマー、中国、インドの電子・自動車産業の事例研究をまとめ、分析しました。

伊藤健司 2013,“大型ショッピングセンターの立地多様化と出店用地”,土屋純・兼子純編 『小商圏時代の流通システム』,pp.195-213,東京,古今書院.

 少子高齢化などを背景として、日本の流通システムは2000年代に入って大きな変化の時期を迎えています。本書では、人口増加や消費・市場の拡大を前提としてきた従来からの量販型流通システムがどのように変化しているのか、「小商圏」型の流通システムがどのように成長してきているのか、そして、まちづくりと流通との関わりなどを扱っています。都市型のミニスーパーやネットスーパーの展開、「まちの電器屋さん」の再評価、都市でも農山村でも生じているフードデザート(食の砂漠)問題、低人口密度地域での流通システムの維持などについて具体例を元に検討されています。
 私は、まちづくりと流通との関わりの一部として、第12章「大型ショッピングセンターの立地多様化と出店用地」を担当しました。大型ショッピングセンターが市街地内部と外縁部に多く立地していること、都市内部での出店においては工場跡地が利用されているため産業構造や都市構造の変化と関係があることなどを示し、今後のショッピングセンターのあり方について検討しました。

名和洋人 2013,“アメリカ合衆国における戦時農林資源政策”,野田公夫 編 『農林資源開発の世紀:「資源化」と総力戦体制の比較史(農林資源開発史論 I)』,pp.403-442,京都,京都大学学術出版会.

 近年、資源問題への関心が高まっています。しかし農林資源に焦点をあて、科学技術発展と第二次大戦期の総力戦体制の中で、持てる全ての人と自然を「資源化」した点の研究は進んでいませんでした。本書はここに光をあて、日本・ドイツ・アメリカを比較検討しました。あわせて、現代の人間と自然との関係理解を促す議論素材の発見も目指しています。
 名和洋人は、第8章「アメリカ合衆国における戦時農林資源政策」を担当しています。1930年代の合衆国は、巨大な農業生産力を誇ると同時に、広大な国内の中で地域的分業を顕著に確立させたため、各地で単一商品作物への過度の傾斜が生じていました。長距離の農畜産物輸送、すなわち国内輸送能力の圧迫や化石燃料の浪費という弱点を抱え、大戦期に対応が必要となったのです。本章は第1に、有力商品作物の綿やタバコの世界市場喪失と生産制限のなかでの、合衆国南東部における生産作目の再編・多様化(特に畜産の拡大)、また第2に、第二次大戦下の農畜産物の地域的自給に資する土地利用計画の策定と実現、を解明しました。そのほか、農業の機械化による余剰労働力の国防部門への大量移動、大豆生産拡大に伴う化学肥料製造能力の余剰化とこれらの火薬製造への転換、を指摘しました。

渋井康弘 2012,“グローバリゼーション下の日本機械工業と産業集積”,鳥居伸好・佐藤拓也編著 『グローバリゼーションと日本資本主義』,pp.95-138,東京,中央大学出版部.

 本書は、世界金融危機や欧州信用不安などに見られる世界経済の混迷の背後に、グローバリゼーションという大きな潮流があると考え、それが日本資本主義に何をもたらすのかを分析したものです。
 グローバリゼーションは、商品や資本や技術や人がやすやすと国境を越える時代を作り出しました。一瞬のうちに貨幣が世界を駆けまわり、株価の急騰をもたらしたかと思えば直後に金融危機を引き起こすといった金融の暴走も、産業の海外展開による日本産業空洞化の可能性も、このグローバリゼーションを背景に進んでいます。
こうした大きな変化が進む最中、日本は東日本大震災を経験しました。震災は日本経済に大打撃を与え、グローバリゼーションの下で進行している産業空洞化を一層促進することとなりました。
 本書では、日本資本主義がこの大変動を経てどこに辿りつくのかが、8章にわたって検討されています(8人による分担執筆)。私は第4章「グローバリゼーション下の日本機械工業と産業集積」で、国内の産業集積地が連携しあいながら、アジアを範囲とする広域の分業構造の一角を担って行く可能性を探りました。現在進行中の事態を先読みする試論を含む本なので、異論も多いことと思いますが、議論を喚起できれば幸いです。

谷ヶ城秀吉 2012,“大阪商船の積極経営と南米航路”,公益財団法人渋沢栄一記念財団研究部編『実業家とブラジル移住』,pp.193-227,東京,不二出版.


 2008(平成20)年、日本人のブラジル移住100年を記念する式典が各地で催されました。東京・北区にある渋沢史料館でも企画展「日本人を南米に発展せしむ」が開催されました。戦前の著名な実業家であった渋沢栄一は、ブラジル移住事業の熱心な推進者でもありました。

 移住事業には、渋沢以外にも数多くの実業家が関わっていました。そこで渋沢史料館では、渋沢、岩崎久弥(三菱)、武藤山治(鐘紡)、平生釟三郎(東京海上保険)ら実業家と移住事業の関わりを歴史的な観点から探るための共同研究を組織しました。同時に事業そのものを支えた金融、海運、あるいは日本−ブラジル関係を解明することも試みました。前者は本書第I部に、後者は第II部にそれぞれ収められています。

 谷ヶ城秀吉は、移住者輸送を担った南米航路の経営実態を大阪商船(現・商船三井)の内部資料を通して解明する第6章の執筆を担当しました。従来、同社南米航路の経営状態は良好であると理解されてきましたが、収益性や投資効率の点から見れば、むしろ問題のある航路経営であったことが明らかになりました。

経済学部教員の書籍を紹介します。それぞれの著述の概説は、教員自身によるものです。国内外の書店や図書館で、見かけられたり、興味をもたれたら、ぜひ手に取ってみてください。

Katsuura, Masaki 2012, “Lead-lag Relationship between Household Cultural Expenditures and Business Cycles,” Journal of Cultural Economics, Vol. 36, No. 1, pp. 49-65, Dordrecht, Springer.

 

 本論文が掲載されたJournal of Cultural Economicsは,国際文化経済学会の公式ジャーナルです。文化経済学に関する学術雑誌はそれほど多くはありませんが、Journal of Cultural Economicsはこの分野の最も権威のある雑誌の1つとなっています。
 文化や芸術は、通常の財・サービスとは異なった性質をもち、これまで経済学においてあまり扱われてきませでしたが、文化経済学は、それらを経済学的に分析することを目的とします。なぜクラシックコンサートのチケットは高いのか、芸術家の所得水準はなぜ低いのかといった問題意識からスタートし、ミクロ経済学の応用といった側面も強いものの、現在、その守備範囲はかなり多様化しています。
 本論文は、家計の文化に対する支出の月次データを用いて、その変動が日本の景気変動とどのように関連しているのかを計量経済学の手法を適用して分析した研究です。したがって、これまで文化経済学ではあまりとられていなかったマクロ経済学的な視点を導入したことが特徴です。分析結果としては、全体的な景気変動と文化支出の対応関係は不安定で、特に景気拡張期でより多くの循環変動が観測されました。そして、観測結果を所得弾力性などと関連させて説明を試みました。


諸富徹・浅岡美恵(李秀澈訳)2011,『低炭素経済への道』[韓国語], ソウル, 環境と文明社.

 

 本書では、低炭素経済への道はエネルギー費用の上昇という痛みを伴いますが、これを克服する過程で化石エネルギー依存体質から脱却、新しい低炭素ビジネスの創出が可能となり、持続可能な成長と雇用安定も保障されると語られています。たとえば、生産活動過程で工程の低炭素革新(プロセス・イノベーション)と生産された製品の低炭素革新(プロダクト・イノベーション)を促すことが低炭素経済の要諦であると論じています。そのため、エネルギーや製品に組み込まれている炭素が、価格として機能しうるような税制や財政の改革とともに、排出権取引制度など多様な低炭素政策の組み合わせも提案しています。
 著者の諸富徹京都大学大学院教授は、エネルギー・環境政策分野で旺盛な著作活動を行っている気鋭の学者です。本書の訳者である李秀澈は、アジアにおける望ましい低炭素経済の在り方について諸富教授と共同研究を行っています。また、浅岡美恵氏は弁護士活動の傍ら、長い間、地球温暖化に関わる日本有数のNGO「気候ネットワーク」の代表として低炭素経済を推進する市民運動を主導しています。近年「低炭素緑色成長」への政策転換を計っている韓国をはじめ、化石エネルギー依存型経済成長を続けているアジアの国家においても、本書の示唆するところは大きいでしょう。


Tanimura, Mitsuhiro 2011(李勇译・程雅琴校), “从物理学类推得出的‘可想象治理’记述―应对‘多栖居住’的‘量子城市治理’理论的构建―”, 王名主编『中国非菅利评论』, Vol.8, pp. 92-115, 北京, 社会科学文献出版社.

 

 本書に所収された論文は、 “物理学からの類推より‘考えられるガバナンス’の記述”(谷村2009)—その英語版 “Descriptions of ‘Conceivable Governance’ by Analogy with Physics”(Tanimura 2009)—を中国語へ訳出くださったものです。まずは、清華大学公共管理学院NGO研究所長 王名教授をはじめ、諸氏のお力添えに深く感謝申し上げます。
 国際社会では、「ガバナンス」をこれまでになくしなやかに発想する必要に迫られています。そこで、本論文では、いったん思い切って旧来のガバナンス論から離れ、物理学分野の言説からのパラフレーズにより、“考えられるガバナンス”の理論的枠組みを構築する作業を試みました。
 これまで、私たちは、特殊な「ニュートニアン都市ガバナンス」を先に見せられ、それが描く世界が一般的な世界そのものであるかのようにすり込まれてきたといえるかもしれません。そして、より深化したパラダイムとしての「量子都市ガバナンス」—量子力学における多世界解釈にヒントを得た試案—は、“定住者”の思考様式というものの特殊性を炙り出す可能性もあると推しはかりました。

松尾秀雄 2011, “中国の社会制度としての都市戸籍と農村戸籍”, 菅原陽心編『中国社会主義市場経済の現在』, pp. 355-391, 東京, 御茶の水書房.

 

 本書は、1997年に山口重克東京大学名誉教授を中心として発足した研究グループの成果の一端を示した書です。この共同研究では各自テーマを設定し、中国における市場経済化の進展過程を市場経済の多様性という視角から分析を行い、中国型市場経済を類型として明らかにすることを目的としています。
 松尾秀雄は、第12章「中国の社会制度としての都市戸籍と農村戸籍」を担当しました。戸籍を付けて高級マンションを販売しますという新聞広告を中国で見て、衝撃を受けたことが研究の起点です。戸籍は、身分であり定められた住所です。さらに、1949年以降の社会主義の発展の中で、経済活動や消費財の分配の基礎でもありました。農民工がなぜ農民工といわれるのか、郷鎮企業がなぜ郷鎮企業なのか、都市部にはなぜ国有企業があり、なぜ農村部には存在しないのか。さらには、社会制度としての戸籍制度が中国の人びとに重くのしかかっているにもかかわらず、改革開放の対象にならないのはなぜか。これらの現状について、歴史的事実より分析を行いながら解きほぐす作業を行いました。非常に興味深いテーマであり、今後さらに研究の前進を目指しています。

名和洋人 2012, “エネルギー政策—気候変動対策とエネルギー安全保障をめぐって—”, 藤木剛康編『アメリカ政治経済論』, pp.128-143, 京都, ミネルヴァ書房.

 

 本書は、世界金融危機と国際秩序の多極化、オバマ政権の登場と政権運営を中心に、冷戦後の歴史的な展開も踏まえて、アメリカの政治・経済・外交を概説したものです。現代の世界秩序において中心的な地位を占め、各国に多大な影響を及ぼしているアメリカの政治経済に関する体系的な知識を身につけることができるテキストとしています。さらに本書は、読者自ら問題を発見して資料を収集・分析し、議論できるようになるためのページも用意しています。
 長年、アメリカは世界最大のGDPを記録し続けています。こうした経済活動を継続するうえで潤沢かつ安定的なエネルギーの確保は、決定的に重要です。しかしながら、これは容易なことではありません。本書において名和洋人は、第8章「エネルギー政策」を担当しています。本章は、はじめにアメリカのエネルギー情勢について、統計データからその客観的な実情を示します。次いで1970年代以降の歴代政権のエネルギー政策を、気候変動やエネルギー安全保障といった問題との関連を軸に検討しています。さらに、同政策と地域産業との関連を探り、今後を展望する構成となっています。


杉本大三 2011, “農業”, 石上悦朗・佐藤隆広編『現代インド・南アジア経済論』, pp.127-148, 京都, ミネルヴァ書房.

 

 インドを中心とする南アジア諸国の経済発展は最近マスコミなどでもよく取り上げられ、多くの人の注目を集めていますが、そうした国々のことについていざ勉強しようとしても、これまではなかなか適当な書物がありませんでした。そうした状況を何とかしようとして、南アジア研究に携わる研究者が完成させたのが本書です。インドの経済と社会についての論考に紙幅の多くが費やされていますが、パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ネパールについてもそれぞれ1章が割かれており、1冊で南アジア経済の全体像が把握できる構成になっています。各章はそれぞれの分野の専門家が全力で執筆したものであり、最新の研究成果が反映されていますが、文章は可能な限りやさしく、かみ砕いた表現で書かれているので、初めてこの地域の経済を学ぼうとする人も十分理解できるようになっています。
 杉本大三が担当した第5章「農業」では、独立以降のインド農業の推移を、農業政策や農業技術、農家の階層構成という3つの側面から検討したうえで、現在のインド農業が、農産物輸入の自由化に伴う世界市場との結合の強まりや、穀物在庫変動の拡大といった新しい課題に直面していることを指摘しています。

山本雄吾 2011, “タクシー”, 日本交通学会編『交通経済ハンドブック』, pp.205-206, 東京, 白桃書房.

 

 本書は、現代の社会経済活動に現れる交通事象を網羅したハンドブックで、交通の機能、交通機関、政策から環境問題、安全・防災対策までを体系的かつ論理的に論じています。
 2011年に創立70周年を迎えた日本交通学会が、研究成果の社会還元を図り、学会の社会的責任の一端を果たすために本書の出版を企画しました。そのため、多数の学会会員がそれぞれの研究分野に応じて分担して執筆しています。執筆にあたっては、たんなる用語解説にとどまらず、最新の研究成果や政策動向にも言及し、交通学研究の最前線を理解するための研究書を目指しました。
 山本雄吾は「タクシー」を担当しましたが、市場が縮小するなかで新規参入が継続するという経済学の常識とは相反するタクシー業界の現状が、業界固有の賃金体系(歩合制)の結果であることを示しました。そして、現在のタクシー事業の大きな課題である乗務員の低賃金・長時間労働を改善するためには、この賃金体系の改革が必要なことを提示しました。
本書が、交通に関心のある方々にとって、交通事象の理解に役立つことを期待しています。